これはたぶん、恋の、はじまり。 (ページ 2)

私が社長室のデスクの側で大ぶりのピアスを見つけたのはその翌日のこと。

「お疲れ。篠崎さん。俺今、社長室に女の子が入ってくの見ちゃった。…いやらしいことしてたりして。」

「……してるんじゃないですか?私も昨日デスクの側でピアスを見つけましたし。」

「なかなか目ざといね。てか、ピアス落とすほどってどんだけ…」

頭の中で勝手に繰り広げられる妄想は昨日から続いている。

「篠崎さん、まだ社長が好きなの?」

山崎が背後からコピー機の上の私の指をいじりだす。

骨っぽい手は少し湿っている。

「…っ、やめてください。…私は社長のことが…」

「本当に?…篠崎さんは多分俺のことも結構好きだよ。」

「…っ!?…何なんですか?その自信…。」

図星だった。

抱き寄せられむくれつつもまんざらではない気がしている。

一方的なスキンシップも嫌ではない上に、たまに来ないとがっかりしている自分がいた。

火照った顔を見られないようにうつむき、山崎の手に触れた。

挨拶ではない抱擁のなかで強く感じる香りにいつもとは違う展開を妄想してしまう。

規則的に動くコピー機が警戒音を鳴らしているように聞こえた。

もう社長のことは考えていなかった。

「ねぇ篠崎さん、…しよ。」

「はぁ…あっ…んんっ…。」

オフィスでもほとんど人が来ない来客用のトイレの洗面台の前で私たちはキスをした。

営業中のオフィスのトイレ、いつ人が来るかも分からない場所。

気がつけば私は大胆に彼を求めていた。

舌がほどけるのを眺めていると山崎の熱っぽい視線とかち合った。

「篠崎さん、すごいエロいキスするんだね…。俺、食べられちゃいそう…。」

「いつも私のこと焚き付けてくるくせに…。山崎くん…。」

キスをしながらスーツ越しに撫であうだけで高ぶっていく。

焦れた熱が募り体の芯が疼きだす。

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