温和な彼が実は経験豊富という噂を耳にして、焦りと嫉妬のキャンディキスを仕掛ける話

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温和な彼が実は経験豊富という噂を耳にして、焦りと嫉妬のキャンディキスを仕掛ける話 (ページ 1)

ぷは、と互いの唇が離れる。

 脱力しきった彼の口元からわずかに見え隠れするのは、テラテラと鈍く光る飴。
 綺麗な球体ではなく少々いびつな形をしているのは、つい先程まで二人して夢中になって、舌先で甘く踊らせていたから。
 

「サナエ、どうしちゃったの…?」

 そう尋ねながら、とろりと私を見つめる瞳は今にも溶け落ちてしまいそうで。困惑した彼の声色に混じる、確かな色欲。
 

 まるで君らしくない――という彼の言葉を、大胆にも私は唇を押し付けるようにして彼の口を塞いで遮る。普段なら恥じらいが勝るが、一度タガが外れてしまえば容易いものだった。
 

「…カズヤには、こんなキスどうってことないでしょ?」
 

 わけがわからないと言いたげな表情のまま、カズヤは首を傾げる。それより早く続きをしよう――そんな彼の気持ちが透けて見えて、閉じていた奥歯にギリッと力が入る。
 

 このまま、カズヤに流されてやるものか。戸惑いながらもしっかりと「先」を強請ろうとする彼を置いて、私は思いにふける――
 

 

*****

 

 事の始まりは、交際して半年が経とうとしている彼氏、カズヤがいない、サークルの飲みの席。

 今年の春で大学2年生になった私は、先日待ちわびた20歳の誕生日を迎え、サークル内で「サナエ 誕生日と飲酒解禁おめでとうの会」が催されることになったのだ。

 
 当日の朝、カズヤももちろん参加だよな、と幹事の先輩に話を持ちかけられた彼は、苦い顔で「…ゴメン不参加で」と言い残し、そそくさと帰ってしまった。
 

 カノジョの誕生日会なのに不参加とはなんだよもう、と不満を零す先輩の陰に隠れて、同級生の友人が遠慮がちに私に耳打つ。

「…カズヤくん、最近付き合い悪いじゃない? …あのね、気を悪くしないでほしいんだけど…」
 

 ――昔の彼女さん|たち《・・》と揉めてるみたい。

 私より一つ歳上のカズヤ。ついこの間のデートで、今年からいよいよ就活に向けて動き出さないと、と困ったように笑っていたあの顔は、どこまで本心だったのだろう。
 

 唯一の救いは聞いた話が浮気でなかったことだが、ここまで来るとどこまで彼を信じて良いのか分からない。
 

「やっぱり本人にちゃんと聞くべきだよ。カズヤくん、今日会えないの?」
 

 大学の近くにある小ぢんまりとした居酒屋。ひとしきりサークルの面々に祝ってもらった後、友人がグラスを持って私の隣に座るなり、そう問いただしてきた。

 
「どうかな…今後は就活の準備で忙しくなるから会いにくくなるって釘刺されたばっかりだし」

 自嘲気味に笑いながら、私は指で自分のグラスをなぞる。ポタポタと雫が伝い、テーブルに水溜まりをつくった。
 

「よし分かった、サナエ酔い潰れよう」
 

 一瞬耳を疑った。冗談はよしてと言いかけたが、友人の思いのほか真剣な面持ちに言葉を飲み込む。
 

「さすがに彼女が初めてのお酒の席で酔い潰れたって聞いたら、ちゃんと好きなら迎えに来るでしょ。どっちかの家に帰ってからゆっくり話せばいいし、一石二鳥ってやつ?」
 

 カズヤに尋問するなら酔い潰れちゃダメでしょうが、と呆れつつも、私は氷ごと残りの酒を飲み干した。
 

 

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