赴任してきたイケメンドクターは大嫌いだった同級生。そんな彼になぜか翻弄される私
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赴任してきたイケメンドクターは大嫌いだった同級生。そんな彼になぜか翻弄される私 (ページ 1)
舞香が看護師になって五年が過ぎた。覚悟はしていたけれど、本当に毎日忙しい。六人いた同期も二年が過ぎたころには二人まで減った。
もともと出かけることが好きだった舞香だが、最近は休日も家でゴロゴロすることが多い。
飲み会に参加することもめっきりと減り、恋愛も億劫になっていた。だからしばらくセックスもしていない。
そんな時だった。
「来週、新しいドクターが来るんだって」
お局たちがひそひそと喋っている。
「まだ二十代だけど評判いいらしいよ」
「そうなんだ、きっと争奪戦ね。イケメンなのかな」
「こんな楽しみがないとやってらんないわ」
ドクターが来るたびに、女性陣のあいだでこうして噂話が始まる。実際、ドクターと看護師のいけない関係を舞香も知っているが、舞香にとっては無縁の話だと思っていた。
だから、この時も特に興味を持つこともなく、そろそろ美容院の予約をしなくちゃと、呑気に自分のスケジュールを気にしていたのだ。
噂のドクターの初日は舞香が夜勤で会えなかったが、好印象のドクターということは翌日の女性陣の雰囲気でわかっていた。
*****
その日、舞香は夜勤だった。日勤を終えた舞香の同期が珍しく走って舞香のもとにやって来た。
「ねぇ、新しいドクター絶対舞香のタイプだよ」
「バカ言わないでよ。ドクターとかどうでもいい」
「舞香が興味ないのは知ってるけどさ、好きだと思うよ。塩顔のイケメンだしね」
「こら!早く帰んないと誰かに捕まるよ!」
お喋り好きの同期を振り払い、舞香は仕事にとりかかる。舞香のタイプを知り尽くしている同期があんなに必死に言ってくるなんて、少し興味が湧いたりもする。
きっとそのうち会うだろうと思いながら廊下に出ると、偶然にも噂のドクターが前から歩いてきた。
ー塩顔のイケメン!確かに…。
マスクをしていても自分のタイプだとわかる。同期の情報は間違っていなかったと思いながら、挨拶をしようと思ったときだった。
「覚えてる?」
「はい?」
その声と言葉に舞香は立ち止った。
「久しぶり」
「…はい」
「高校のとき同じクラスだっただろ」
ゆっくりと顔を見上げる。
「あっ、幸樹!」
その瞬間、誰かに見られたかもしれないと、舞香は慌てて周りを見渡した。
「覚えてた?お前、全然変わらないな。歩き方ですぐにわかった」
「え?それより、なんであんた医者になってんの?」
「俺?頭よかったじゃん、お前と違って」
その一言で、舞香は高校時代の幸樹を鮮明に思い出した。
無口で無関心でいつも毒を吐く男子。何が楽しいんだろうと不思議だった大嫌いなクラスメイト。なのに、なぜかいつも気になって話しかけていた男子。その同級生が今、目の前にドクターとして現れたのだ。
「これから色々とよろしくな」
「…は、はい」
幸樹はそう言ってあっさり立ち去って行ったが、その後ろ姿は高校のときと変わっていなかった。
センター分けの黒髪、きりっと整えた眉、切れ長の細い目。マスクの下はどう変わっているのかわからないが、がっちりした体型は白衣からもわかるほどだ。
ーあんなにイケメンだったっけ?
舞香は妙な気分だったが、幸樹の性格は変わっていないようだ。大人になってさらに拍車がかかったかもしれない。
こんな偶然があるものかと驚きながらも、幸樹が舞香のことを覚えていたことは少し嬉しかった。
「ちょっと先生にこの資料届けて」
お局が舞香に頼んだ。
「わかりました」
渡す相手は幸樹だ。舞香はもう一度しっかりと幸樹と挨拶でも交わそうと思っていた。相変わらずクールな幸樹とは違い、社会人として成長した自分を見せつけようと思った。
「すみません。書類を届けにきました」
「ありがとう」
他の看護師がいるのかもわからないから、舞香は明るく声をかける。そのまま進むと幸樹は一人だった。
「こちら、頼まれていた資料です」
「ありがとう」
舞香の目も見ないで、幸樹が言った。
「あの…」
「何?」
「私ってすぐわかったんですか?」
「へ?」
幸樹が顔を上げる。
「ああ、言っただろ」
「はい、まぁ」
「今、喋る時間ないから明日飯でも行く?」
「え、は、はい。明日休みなんですけど」
「じゃあ待っててよ。適当に連絡するから。電話番号書いて」
「は、はい」
舞香は幸樹のペースにあっさりのまれていた。どうしてなのかはわからない。出されたペンとメモにしっかり電話番号を書き、そのまま退出した。
貴重な休みを幸樹と食事?しかも、何時になるかわからない?
本当に嫌なやつだ。何も変わっていないのだ。それなのになぜ断れないんだろう。
もやもやしながら仕事に戻った舞香だが、そのあとは激務に追われ幸樹のことをそれ以上考える余裕はなかった。
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