赴任してきたイケメンドクターは大嫌いだった同級生。そんな彼になぜか翻弄される私 (ページ 2)

 翌日、舞香は珍しく早起きだった。幸樹との食事が気になって仕方がない。ざっくり夜になるのは幸樹の診察スケジュールでわかっていたが、どこに行くのか予想もつかないのだ。

 すると午後になって幸樹からやっとショートメッセージが届いた。

「誰かに見られたら面倒だから、七時に俺のとこ来て」

 そんなメッセージと住所。隣のコンビニで待ち合わせ。

 高級フレンチでもご馳走してもらおうと期待していたのに、どこに行くんだろう。

 とりあえず、どこに行っても大丈夫なように清楚系のワンピースを着て準備をする。舞香のアパートから二駅先に幸樹が住んでいるのも驚いた。

 お局たちの情報から独身だとは聞いていたけれど、彼女はいるかもしれない。もし何かが起こっても、同級生という便利な立場を利用すれば問題ないはずだ。

「よっ!」

 幸樹がやって来た。白衣から着替えた幸樹は新鮮だった。

 だぽっとしたグレーのパーカーを着た幸樹は若く見える。舞香は高校のときも幸樹の私服が好きだったことを思い出す。きつい性格とは裏腹にふんわりした印象を与えるから不思議だ。

「酒、飲む?」

「そうね、少し」

 今日こそ幸樹のペースに吞まれないようにと思っていたが、難しいかもしれないと舞香は思い始めていた。

 部屋はモノトーンでまとめられ、綺麗に片付いていた。とても幸樹らしいと思う。

「人間味のない部屋ね」

「ぴったりだって言いたいんだろ」

「まぁね」

「もうすぐ適当に頼んだ出前が届くから」

「ありがとう」

 舞香はテーブルに座り、キッチンに立つ幸樹を眺めていた。

「ほんと、まだ信じられないんだけど。幸樹と同じ病院とか」

「俺もだよ。お前だけだったからな。高校のとき俺に負けずにあれこれ言ってたやつ。だからはっきり覚えていたよ。でも舞香らしいな。看護師になったって」

「そう?」

「お節介だし、てきぱき動くし」

「お節介?」

「そうだよ。お節介で断れないタイプで、よくクラスでも変な立ち位置にいただろ」

 幸樹が舞香をそんな風に分析していることが意外だった。というより、何も興味がないと思っていたのに、そうやって舞香を見ていたことにも驚いた。

「幸樹もイケメンに拍車がかかってモテるでしょ」

「俺ってイケメンなの?普通だけど」

 笑いながらそう答える幸樹はやっぱりかっこいい。

「かっこいいよ、誰が見てもそう言うと思う」

「舞香は?」

「うん、かっこいいと思う」

 思わずそう言った舞香は少し照れていた。その空気を変えるかのようにインターホンが鳴り、出前が届いた。

 ほっと舞香は息をつく。幸樹は何を思って舞香を誘ったのだろう。そして、舞香は何かを期待しているのだろうかと自分にも問いかけていた。

「まぁ適当に食って」

「うん、乾杯!」

 高校時代に戻ったような、そんな不思議な空間だった。高校を卒業してからの人生をざっくりと報告しあいながら、笑ったり毒づいたり、いつのまにかただ楽しく過ごす同級生二人に変わっていた。

「彼女がいないのもわかったけどさ、ダメだからね、うちの院内で誰かに手を出しちゃ」

「わかってるよ」

「なにかあったら私に言って」

「舞香に言ったら何かしてくれるのか?」

「何もしないけど…」

「じゃあ、俺と付き合わない?」

「え?」

 突然の幸樹の告白は、舞香を激しく動揺させる。真剣な眼差しで舞香を見る幸樹に吸い込まれそうになる。

「嫌いか?俺のこと」

「嫌いじゃないけど…」

 嫌いではない。でも、好きかと言われるとわからない。でも、断りたくない。

「じゃあ試す?」

 幸樹が舞香の唇を奪った。

「うっ…」

 ビール味のキスは濃厚で、幸樹が舞香の顔を両手で包み込む。そのまま舌を絡ませ、ゆっくりと幸樹が舞香に覆いかぶさった。

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