偶然再会した元カレの後輩と愛し合った私。後輩の言葉が私を激しく惑わせる。 (ページ 2)

 偶然の再会から、二人は毎日メッセージのやり取りをしていた。二人ともが独身で彼氏、彼女がいない。

 悠馬は大学卒業後に地元に戻らずに就職し、一人暮らしをしている。精密機械のメーカー勤務で海外出張も多いらしい。だから恋愛に発展するのが難しいようだ。

 そんなやり取りの中で、少しずつ悠馬の言葉使いがカジュアルになることが増えた。桜子は二人の距離が縮まったようで嬉しい。

 付き合っていない男と女が一番楽しい時間。何となくただの友達とは違う展開が見えるやり取り。

 二回目に会う約束は簡単に決まり、二人は胸を躍らせたまま再会から一週間後にデートをすることになった。

 前日の夜から桜子は昂っていた。映画を見て食事を楽しもうという計画。大人の二人には、きっと愛し合うという項目が追加されるに違いない。

 悠馬もそう思っていてほしいけれど、四年ぶりのセックスが上手くできるかどうかの不安。年上の桜子がリードするべきなのか、あまりにも久しぶり過ぎてわからない。

 そんなことを考えながら、下着も上下お揃いのものにして鏡の前でポーズを決める。やはり二十代とは違って、腕の肉はたるみ、背中がもっさりして見える。

「まずい、私、女を忘れてた…」

 夜中に何をやってるんだろうと苦笑いしながら、桜子はほどよく緊張したまま当日を迎えた。

 駅での待ち合わせ。桜子が十五分前に到着すると、すぐに悠馬がやって来た。‎悩んだ結果、無難にベージュの膝丈のワンピースを着てヒールを履き、少し大人びた印象を与えようと思っていた。

「おはよう」

「そのワンピース、似合ってますね」

 満面の笑みで桜子を褒める悠馬はモノトーンで決めていて、クールで男っぽさが際立つ。

 ヒールの桜子に気を配りながら、予定通り駅の反対出口の映画館まで歩き始めた。

 映画は上映されてしばらく過ぎていたので、土曜日といっても空席が目立っていた。一人で鑑賞を楽しむ人も多い。二人が選んだシートは後ろから五列目の真ん中だ。

 飲み物だけ買い、互いの右と左のホルダーに置く。

「かばん、大丈夫?」

「うん、コートと一緒にこっちに置くから」

 ライトが少しずつ暗くなり、上映予定作品のラブシーンが流れると、桜子は妙にそわそわし始めた。

 元カレとは手を繋いでいたような、いなかったような。普通、映画館のデートでは手を繋ぐものだったかも忘れてしまっている。

 そんなことばかり考えているせいで、始まる前から集中できない。

 明らかに桜子は悠馬と男女の関係になりたいと一人で浮ついているのだ。

 ふーっ。

 大きく深呼吸をする。

 そんな桜子の横顔を悠馬が見つめる。すると、ゆっくり悠馬が桜子の右手を握った。温かくて大きな手は桜子を安心させた。

 ところが、悠馬が指先でくるくると円を描きながら桜子を刺激し始めた。

 生温かくくすぐったい感覚と、暗い映画館という状況が桜子の理性を狂わす。

 前を向いているはずの二人が、まるでぴったりと密着し合っているような、そんな空気が二人をまとう。

 そのまま太ももに悠馬の手が移動してくれないかと、桜子は必死で訴えていた。

 お願い…。

 触って…。

 でも悠馬はそれ以上の刺激を与えない。まるで焦らすことを楽しんでいるかのような余裕が指先から伝わる。

 桜子は勝手に興奮している自分がとてつもなく恥ずかしかった。お局の嫌な顔を考えたり、必死でスクリーンに集中することだけを考え何とかエンディングまで耐え抜いた。

 エンドロールまで手は握られていたが、館内の照明が付くと二人は自然に手を離し、何もなかったかのように立ち上がるとそのまま映画館を後にした。

「どう思った?最後のシーン?」

「え?最後?そうね、何というか…」

「見てた?」

「…うん」

「見てなかったでしょ」

 桜子の顔を覗き込む悠馬は意地悪な顔をしている。

「桜子さんの耳が赤い」

「耳?」

 桜子はドキドキしたり恥ずかしかったりすると耳たぶが赤くなる。元カレにも指摘されたことがある。

「先輩から聞いてました。桜子さんがどういうときに耳が赤くなるか…」

 思わず足が止まり、悠馬を見上げる。

「なんて聞いたの?」

「いやまぁ…」

 それ以上悠馬は言わず、桜子の手をとった。そしてそのまま歩き始める。元カレから何を聞いているのかはわからない。それでも、もうすでに主導権が悠馬にあることは間違いない。

「お腹すきました?」

「まだあんまり」

「なんか買って帰って俺が作りましょうか?」

 桜子は悠馬の手をぎゅっと握った。もう前戯は始まっていて、下半身が熱くなっている自分を隠せそうにない。

「そうね、悠馬くんの手料理、食べてみたい!」

 そう答えるのが精一杯の桜子の手を、悠馬が家まで離すことはなかった。

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