丁寧に仕込まれ1日かけてじっくり温め熟された体をぺろりといただかれる (ページ 2)

 アパートへの階段を駆け上がる足が既におぼつかない。冬で手足がかじかんでいるからではなく、信行にやられた「仕込み」のせいだ。とにかく痒くて、もどかしい。足がもつれて転びそうになってしまう。
 
 家の鍵を取り出すのも億劫だったので、息を切らせながら震える指でインターホンを押した。五秒と経たずに玄関の明かりが灯る。ドアの鍵がカチャリと開く音がした瞬間、やっと終わる、という安心感から私は泣きそうになってしまった。

「雪、おかえり。あらら、随分出来上がっちゃってるね」
「ね、取ってよ早く…」
「はいはい、ちょっと待ってね。まず靴とコートを脱いで、ベッドに横になろうか」

 夜を楽しむときに私が使うアロマディフューザーが既にぽっぽっと煙を上げている。信行が勝手に使ったらしい。これもきっと「仕込み」の一環なんだろうなぁと、疲れてぼんやりとした頭で思いながら、信行に手を引かれるままにベッドへと腰掛けた。

「ね、服、脱がして…」
「いいよ。でもその前に」

 信行は私を見下ろし、にっと笑って胸へと手を伸ばしてきた。「掴もうとしているんだ」と気付いた時には既に遅く、彼は「仕込み」の中央部分をぎゅっと掴んで、私を立たせるようにぐいぐいと数回、引っ張った。

「ああっ、やだ、やめてやめて! 急にそんなにしたら!」

 胸やお腹や太もも、お尻にまでに食い込んでいるのは、今朝、信行によって仕込まれた太めの縄だ。紅色のそれは痒さを生む絶妙な質感で、歩く度に体のあちこちが痒くなって、堪らなかった。
 
 絶対に取っちゃダメだよ、と念を押して信行は私を仕事へと送り出した。そうして昼間に「取ってないよね?」と念押しの連絡までして、この夜が来るのを自宅のソファで今か今かと待っていたという訳なのだ。

「何処もかしこも気持ちいいでしょ? むず痒さって簡単に快感に変わるからね」
「くる、くるってば! …っああ!!」

 叫ぶように声を上げる寸前、信行は縄を掴んで揺らしていた手をぱっと離した。崩れ落ちるはずだった私の体は、その場でガクンガクンと電気を流されたみたいになる。体が面白いくらいに跳ね上がって、自分の動きであるはずなのに何故かびっくりしてしまう。
 
 この、バカみたいに感じやすくなった体を作るための「仕込み」だったのだと気付いて、私は達した後のぼんやりした頭で後悔した。信行の悪戯に付き合っていては、ろくなことにならない!

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