契約でしかない愛人関係が終わる今夜、もう二度と戻らない幸せな時間を体に刻みつけて (ページ1)

啓介さんのキスはとても優しい。そっと唇にふれるだけの軽いキス、それだけで身体が火照り心の底まで幸福感が広がる。

待ち合わせるとすぐに抱きしめてキスしてくれる。いつでも優しく暖かいキスを。けれど、あなたはあなたがいるべき場所に帰ってしまう。

もともとそういう契約だった。啓介さんは私のことなんかなんとも思ってないって最初から知っていた。

「真美」

啓介さんに呼ばれて顔を上げる。いつものシティーホテル、いつもの部屋。啓介さんは私のために一番良い部屋を取ってくれる。そしていつも優しくしてくれるのは契約だから。

「どうしたんだ、暗い顔をして」

「ううん、なんでもない」

無理に笑ってみせると啓介さんはそっと腕を伸ばして私を抱きしめてくれた。

「今日で契約は終了だね」

「はい」

「この一年間、本当に楽しかったよ」

啓介さんと私の契約、それは『愛人』として会い続けるということ。

啓介さんには奥さんがいる。昨年、お子さんも生まれた。彼は家族を愛している。
けれど、三年前まで啓介さんには大好きな人がいた。幼馴染でずっと好きだった結婚の約束もしていた人。けれど、若くして亡くなってしまったそうだ。

啓介さんと出会った日のことを私はずっと忘れたことはない。あれはまだ私が大学生だった時のこと。街で突然に腕をつかまれた。

「きゃあ!」

「あ、すみません! 人違いを……」

私の腕を握ったのが啓介さんだった。亡くなった幼馴染にそっくりだと言って頼みこまれたのだ。愛人になってくれと。

その当時、奨学金の返済に頭を悩ませていた私はすぐにその話に飛びついた。それから契約期間の一年間、私は啓介さんの愛人だった。ただの契約愛人。愛していた人の身代わりでしかないのに、私はいつの間にか啓介さんを愛してしまっていた。

「真美、本当にどうしたんだい。今日、なにかあったのかな」

私は小さく首を横に振って、啓介さんに抱きつく。シャワーを浴びたばかりのバスローブ姿で私たちはぎゅっと抱き合った。

啓介さんは黙って私の額に口づける。額から優しさが全身に広がっていくようで私はうっとりと目を閉じた。いつもならこの優しさにいつまでも浸っていられるのに、今夜は悲しさに支配された心に啓介さんの感情が届くかない。

「真美……、嫌なら今日はやめようか?」

驚いて啓介さんを見上げると、心配そうに私を見つめていた。

「抱いて、抱いてください」

私は背伸びをして啓介さんの唇に唇を重ねた。自分からキスをしたのは初めてだ。啓介さんが驚いて目を見開いた。

私はかまわず啓介さんの唇を舐め、口中に舌をさし入れた。啓介さんがすぐに私の舌を吸い、甘噛みする。じんと軽い痺れが腰に伝わった。私の秘所からとろりと最初の雫が湧きだす。

私は啓介さんのバスローブの紐を解いて前をはだけさせた。啓介さんのたくましいものは、すでに硬く立ち上がっている。ひざまずいて啓介さんのものに手を添えて頬ずりする。とても温かい。心が溶けそうなほど濃厚な男の人の香りがあふれている。ごくりと喉を鳴らして私はそれを口に含んだ。

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