彼の手にはスマートフォンが握られ、私のあられもない姿を…

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彼の手にはスマートフォンが握られ、私のあられもない姿を… (ページ 1)

「ねぇ……本当にやるの?」

理沙は隣に座る浅見に不満気に聞いた。

「もちろんやりますよ。だって、理沙先輩いいって言ったじゃないですか」

ウキウキしながら答える浅見の手にはスマートフォンが握られている。理沙はそれを見て、苦々しい気持ちで俯いた。

五つ下の浅見とは、二年前から付き合っている。初めは先輩と後輩の関係だった。

新入社員で会社に慣れない彼のサポートをしているうちに、いつの間にか一緒に飲みに行くような関係になり、そして浅見から告白された。

浅見とは歳が五つも離れているし、先輩と後輩の関係だし……それに、浅見は社内で女子社員からの人気も高い。そんな彼が自分になんて……と、最初、理沙は戸惑って一度断った。

けれども浅見はそんな理沙の態度に俄然やる気のスイッチが入ったらしい。

朝昼晩と、隙あらば猛烈なアピールを繰り返し、ついには理沙が根負けするような形で付き合うことになったのだ。

二人の関係はまだ社内には秘密にしてある。理沙が周りの女子社員の目が怖いのと、会社側に社内恋愛が快く思われていないためだ。

だから二人の時間は、仕事終わりにどちらかの部屋で会うほんの僅かな時間だけ。休みもなかなか合わないので、この時間はとても貴重だ。

(なのに……こんなことになるなんて)

理沙は浅見が握るスマートフォンを見て、軽く溜息をついた。

「理沙先輩、溜息なんかつかないでくださいよ」

「だって……」

理沙は少し唇を尖らすと、「私、浅見君から『出張の時、寂しいから動画撮ってもいいですか』ってしか聞いてないもん」と言った。

ハメ撮りなんて聞いてない、とムッとしていると、つんつんと頬をつつかれる。

「怒った顔の理沙先輩も可愛い~」

「ちょっと! 浅見君!? 私の話聞いてた?」

つつかれた指を軽く叩いて、理沙は浅見を睨みつけた。浅見は叩かれた指を大げさに痛がった後、「だって、動画っていったらハメ撮りでしょ?」と、さも当然のように言った。

「そんなの聞いたこと無いよ! とにかくヤダから! ハメ撮りなんて!」

「えっ!? 嘘でしょ? 本当に駄目なんですか?」

「駄目!」

「そんなぁ~~」

浅見は悲しい顔をしながらへなへなと崩れ落ち、その勢いで理沙に抱きついてきた。腰の辺りに手を回し、ぐりぐりと首元に顔を埋めている。

「明日から僕、出張なのに。三日も理沙先輩に会えないのに……」

ぐすっと鼻を啜る音が聞こえる。泣き真似だろうと思いつつも、理沙は「泣かないで」と、浅見の頭を撫でた。

五つ下であることを逆手にとっているのか、浅見は理沙にこれでもかと甘えてくる。

「あーんして食べさせて」とか「膝枕して」とか。今まで付き合ってきた彼氏達に同じようなことを言われた時は、理沙は全て「嫌だ」と断り、別れてきた。

けれども浅見は――

(何でもしてあげたくなっちゃうのよねぇ)

浅見の頭を撫で続けながら、理沙はぼんやりと思った。ほだされる、ではないけれど、浅見のお願いは叶えてあげたくなってしまうのだ。

(理沙先輩、理沙先輩ってまとわりついてきて可愛いのもあるけどね)

相変わらずぐすぐすと鼻を鳴らす浅見に、理沙は話しかけた。

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