わかり合った後の初めての宿泊旅行で、終わりのない彼の欲望をたっぷり味わわされた…… (ページ 2)
そしてようやく泰介が部屋から出て行くと、解放された安堵と惨めさでボロボロと大粒の涙をこぼすのだった。
こんなことをされても夫婦に訴えないのは、二人が大切な恩人だからだ。
数年前、突然両親を失った美奈恵を、血筋的には遠いにも関わらず、一人立ちできるまで支援してくれたのである。
泰介は美奈恵よりいくつか年上だが、面識を持ったのはこの家の手伝いを始めてからだ。
美奈恵は残りの掃除を済ませると、暗い気持ちを引きずって家路についた。
*****
それから数日後の仕事帰りのこと。
アパートへ続く人気のない狭い道を急いでいる美奈恵の脇に、急に乗用車が停まった。
助手席のドアが開かれて行く手を遮る。
びっくりして足を止めた美奈恵に、助手席に身を乗り出した泰介が「よぅ」と言って笑いかけてきた。
「少し付き合えよ。話したいことがあるんだ」
「断ったら?」
「無理矢理にでも連れて行く」
「何それ」
ぶっきら棒に美奈恵は返したが、泰介なら本当に誘拐まがいに自分を連れ去りそうだと考え、仕方なく助手席に乗り込んだ。
ほどなくして泰介が車を停めたのは、近場にある海岸だった。
人のいない夜の砂浜に出て、遠くの陸地に光る明かりを眺めた。
「話って何」
「この前のこと……俺のこと、嫌いか?」
「……どういうこと?」
「俺は、お前が好きだ」
いきなりのことに美奈恵はポカンとして隣の泰介を見やった。
彼は真剣な顔つきで美奈恵を見つめていた。
かと思うと、不意に視線をそらして、どこか悔いるように言った。
「お前、うちに来ても仕事ばっかで、遊びに誘ってもスゲェ事務的に断るし……」
「あ、当たり前でしょ。仕事で行ってるんだから」
「仕事じゃない日に会おうって言っても、連絡先一つ教えてくれねぇし……」
「だって、会う理由がないし」
「そっちになくても俺にはあるんだよ」
「ずいぶん勝手じゃない?」
「好きだと思った奴と話したいと思って何が悪い」
「そ、それは……」
そう言われると、仕事だからとつっけんどんにしすぎたかもしれないと、美奈恵は思ってしまう。
もっと思い返してみると、泰介は最初はとても好意的だった。
「で、でも、だからって、あんなことはっ」
「ああ、悪かった。本当に、この通り」
そう言うと、泰介は深く頭を下げた。
「殴るなり蹴るなり好きにしてくれていい。ただ、チャンスがほしい。今度は、ちゃんと付き合いたい……今さら、かもしれないけど」
泰介が本気で言っていることは、よくわかった。
「顔を上げて」
ゆっくりと顔を上げた泰介の頬を、美奈恵はグーで殴りつけた。
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