別れた彼と人波でごった返す花火大会でまさかの再会… (ページ1)


 波が崩れる音がする。夜の砂浜は花火大会の見物客と出店の呼び込みでにぎやかだ。

 卓也も驚いていたし私も驚いた。

 流れに乗れなければペシャンコに潰されそうなほどごった返す人波の中で、まさか約束なしに卓也に会えるとは思わなかった。

 一緒に行こうと約束していた花火大会へは一人で来ていた。もしかしたら居るかもと思うと、友達を誘うこともできなかった。

 だからといって本当に会えるとは思わなかったけれど、卓也はすぐそこにいて、私を見て目を丸くしていた。

 やはり恋しくて、少し気まずいけれども手を挙げて笑いかけた。

 卓也とは少し前まで恋人だった。

 私は今でも卓也のことをどこかで想っているけれど、もう付き合いたいとは思わない。思わない方がいい。ふいに好きという感情は湧き上がるけど。

 久々に見た卓也は惚けたような顔をしていて、かと思うと急に表情を険しくさせた。ずんずん近づいてくると私の手を強引に引っ張った。

「卓也?」

 下駄の鼻緒が指の股に食い込んで痛い。おろしたてで固いのはもちろんだけど、卓也が私の歩幅をぜんぜん無視して引っ張っていくせいだ。ただでさえ浴衣の裾がさばけなくって動きづらいのに。

 人波が打ちよせる歩道のすぐ真横、国道と海辺を隔てる防砂林の中に引っ張りこまれた。松林は月の明かりがわずかにしか射し込まず、何も言わなくたって卓也が怒っているのは背中でわかる。

 ふいに卓也は歩を止めて振り返り、物も言わずに私を松の木に押さえつけた。背中でこすれた木肌がぱらぱらとこぼれ、おろしたての浴衣が汚れた。文句を言おうと卓也を見上げれば、月の逆光の中でまっすぐ私を見下ろす眼差しだけががらんらんと光った。

「いきなりなに。なにするの」
「なんで、茜」
「え?」

 会話がかみ合わない。首を傾げる。

「誰と来たの」
「なに言って、んっ──」

 幹に頭をぶつけた。卓也の強引な口づけに続くはずだった言葉が潰れる。半ば開いていた唇はたやすく割られ、侵入してきた舌が口内を這い回る。

 押しのけようと卓也の胸に手を当ててもびくともせず、それどころか両腕を頭上に持ち上げられ、片手でまとめて縫い止められてしまう。

「んっ、んん!」

 卓也は空いた手を浴衣の襟から差し込んだ。まさか触られると思っていなくて、びくりと肩が跳ねた。

 肌襦袢の下で大きな手のひらが膨らみをこね、少しずつ堅くなっていく先端を親指でこすったりつまんだりする。もてあそばれる内に襟元が徐々にくつろげられ、汗ばんだ胸がさらされてひやっとした。人の歩く音が耳に入り、耳がかっと熱くなった。

 身をよじっても卓也はぜんぜんやめてくれない。それどころか、太股を両膝に差し込むとむりやりにこじ開けた。

 思わず卓也の唇に歯を立てた。

「痛っ!」

 ようやく口が離れた。激しく呼吸をするたびにむき出しの胸が薄闇の中で白く上下した。襟を直したい。あごまで流れる唾液を拭いたい。

「手、離してよ」
「いやだ」
「やだじゃない」

 卓也は先ほどと変わってどこかしょんぼりした様子なのは噛みついたからか。唇にビーズのような赤い玉が盛り上がる。

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