バイト先の喫茶店で、片思い中の店長に思いのたけをぶつけたら燃え上ってしまった。 (ページ1)

常連さんしか来ない裏路地の喫茶店。物静かなクラッシックがしめやかに流れる薄暗い店内は私のお気に入りの場所であり、アルバイト先でもある。元々このお店は店長一人が切り盛りしていて、高校生のときから通い詰めていた私は大学生になり、店長に直談判し強引にアルバイトとして雇ってもらうことになった。

「千歳さん、今日もお疲れ様。一杯どうかな?」

「ありがとうございます!」

ここは、夕方には店仕舞いだ。使用した食器を洗い上げて片付け、掃除を軽くして、会計の計算や翌日の簡単な在庫確認が終わればやることもない。看板をクローズにして、スクリーンも下ろせば誰も来ない。

「お客さんからもらったチョコレートもどうぞ」

2人でチョコレートを食べる。

「おいしいです」

「うーん、俺には甘すぎるかなあ」

甘いけれど、ブラックのコーヒーと一緒に楽しむ分にはちょうどいい。仕事終わりにおいしいチョコレートと店長直々のコーヒー。幸せだ。

それから店長は読書をし、私は課題や持ち込んだ本と向き合う。2人だけのちょっとした時間。夕食代わりのまかないも出してくれて、私はこの店に頼りきりだと思う。1人で食べても寂しいからね、とほわりと笑う店長に甘えてだいたいはここでのんびり過ごす。特に課題が切羽詰まっているときはバイトも休んでいいよ、と言われるのだが、それよりここでの方がはかどるし、私がお願いしていさせてもらっている状況。

「千歳さん・・・?」

珍しく店長が「しまった」と慌てている声が聞こえた。

「・・・ん?」

体が、あつい。顔もほてっている。

「千歳さん。お酒飲める人?どうやら、ウイスキーが入っていたみたいだ」

「店長?」

「うん、とりあえずお水を飲んで。送る」

苦笑いする店長もかっこいい。コップに入った水をテーブルの上においてくれた。店長の腕。戻ろうとした腕をとっさにつかんだ。

「店長の腕」

「・・・大丈夫?」

「店長がいる」

「うーん、困ったな。とりあえず離そうか」

どうして?せっかく店長がいるなら逃げないように捕まえないと。離れようとする店長を追いかけて立ち上がれば、足元がふらついた。

「おっと。危ないよ」

倒れそうになったところを店長が抱き留めてくれる。コーヒーのいいにおいがする。ぱりっとしたシャツ。あたたかい。堪能したくてすり寄ればうわ、と慌てた声。珍しい。

「いや、ですか?」

「いやというか以前に。千歳さん、今まで大学の飲み会とかどうしていたの」

「騒がしいのは苦手です」

「お酒飲んだことは」

「あります。酔っていません」

楽しくなって店長の腕の中で笑う。幸せだ。頭の上で「自制心がなくなるタイプか」というつぶやきが聞こえた。

「素直になっているだけです」

「なおたちが悪い。とりあえず帰ろう」

「店長はどきっとしてくれないんですか」

「年上をからかうもんじゃない」

「ご迷惑ですか。そうですよね」

こんな子供臭い自分に言い寄られても迷惑なだけだ。知ってた。無性に悲しくなって店長から離れる。とても寒い。視界がにじむ。

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