恋人以外の男性にキスマークを付けられてしまった私。恋人は激しい嫉妬と独占欲を露わにして…。 (ページ 2)

「由香里さーん」

 私が会社で唯一親しくしている女の子の声がした。

 後輩がさっと体を離した。

「休憩中すみませーん。課長が由香里さんにやってもらいたい、急ぎの仕事があるって言ってまーす」

 その子は、後輩の姿を見て、ちょっと変な顔をしたけれど、さっさと立ち去った。

 彼女の後を追うように、私もその場を後にした。

 その日の夜、帰宅した私は、鏡を見ながら憂鬱になっていた。

 どうしよう…。

 これじゃ、聡に会えない…。

 よりによって、今週の土曜日に約束しているのに…。

 会えば、ラブホテルへ連れて行かれるのは、目に見えている。

 赤い跡を何か所も付けたあの後輩を、苦々しい思いで思い返しながら、私は溜め息をつくしかないのだった。

 結局、出勤するのと変わらない、ハイネックのサマーセーターで、仕方なく出かけた。

 お昼前に、コーヒーショップで会った聡は、早々とアイスコーヒーを飲み干して、さっさと立ち上がった。

 聡は何かを勘違いしたようだ。愛咬の跡を付けてもいいのだと。

 しばらく会えなかったから、きっと相当溜まっているに違いない。

「ほら、行くぞ」

 私の手首を軽く掴んで、聡は椅子から立たせようとする。

「ま…待って…」

「どうした?」

 不思議そうに、聡は立ち止まる。

「えっと…今日は…あの日だから…」

 彼は変な顔をした。

「そんなはずないだろ。先週くらいには、終わってるはずだ」

 さすが長い付き合い、そこまで覚えられている。

 聡は、何かを察したようだ。

「…どうして、そんな見え透いた嘘をつく?」

「えっと…あの…」

 私はうろたえてしまう。

 怒ったような表情で、聡は私を強引に席から立たせると、引っ張るようにして、ラブホテルへと連れ込んだ。

 シャワーを浴びる時間すらもらえずに、サマーセーターを脱がされる。

 薄れてはいたけれど、私の首元を見た聡は、怖いほどぴりぴりしている。

「…思った通りだ。由香里、浮気したのか」

「そんなことしてない!」

 力いっぱい否定したけれど、彼は表情を和らげてくれない。

「説明してくれ」

 事情を聞いてくれただけ、まだよかった。

 別れ話にならなくてよかったと思いながら、後輩のことを正直に話した。

 性行為に及んでいないことは、あの日私を呼びに来た女の子に、確かめてくれていいと言った。

「…由香里が悪いわけじゃなかったんだな。疑ってすまなかった」

 聡は、普段から怒鳴ったりするような人じゃない。

 でも、すまなかったと静かに言う、低いその声には、怒り…ではなく、激しい嫉妬が感じ取られた。

「もう怒らないから」

 そう言って、聡が腕を広げたので、私は素直に抱かれる。

 瞬時に、彼の唇が派手に音を立てる。

「ああ…」

 久し振りに感じる、恋人の唇。

 首筋を、私の性感帯にした人。

 やっぱり彼でなければ、私は体の芯から感じることは出来ない。

 散々首筋に吸い付かれ、私がその快感に酔っていると、右側に急に痛みが走った。

 びっくりするほどの痛みだった。

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