好きな人にあげたチョコがまさかの媚薬!弱い所を責められちゃう…… (ページ1)

 午後の仕事が開始されて数時間が経過しただろうか。
 私、梨花は資料作成の手をとめ、ふと自分のバックを覗き込む。

(……なんで持ってきちゃったんだろ……私)

 はぁ、と深いため息をついた――のは、今日何回目のことだろう。

 そこには何の変哲もない小箱があって、その中身は「ラブチョコ」なるものが入っている。

「これ、うちの会社の新商品なんだけれどさぁ~。やっと食べられるレベルになったから梨花にあげるね」

 と、昨日、製菓メーカーに勤める姉がくれたものだ。
 チョコレートが好きな私は素直に受け取ったものの、その微妙なセンスの商品名に首をかしげる。

「ありがとう。でも、なんでラブチョコ?」

「バレンタインの義理チョコ用として開発した……ってのは建前でね? ジョークグッズの一貫として中に惚れ薬を入れたかったっぽい」

「惚れ薬って存在するの……?」

「さぁ? ジョークグッズのレベルだからどうせお酒かなんかでちょっと酔っぱらった気分になるってレベルじゃないかしら。何? 実在するなら欲しいってこと?」

「そっ……そんなこと……!」

 一瞬、好きな人……会社の同僚の梶君の顔が浮かんだけれど、慌てて否定した。
 いつも優しくて明るい梶君と根暗な私が付き合うなんてそれこそ惚れ薬がないとありえない気がしてしまい、心がずんと重くなる。

「まぁ「惚れ薬」って名前にすると倫理的にアレだから、じゃあ「媚薬」にしようってなって、それはそれで怒られて、結局なに入ってんのかよくわからなくなった結果その商品名で落ち着いたわけ。一応コンセプトは『片思いのあの人にちょっとしたアプローチ!』ってことになっているから、明日、梶君の机の上に置いておきなさい」

 姉の口から突然出てきた思い人の名前に、私はうろたえた。

「や、やだよ、無理だよそんなの……!」

 抵抗も虚しく、お姉ちゃんは「イイじゃん!」とゴリ押し。お姉ちゃんは会社で『私だと思って食べて?』とチョコを振る舞ったらしい。結果は大爆笑だったそうだ。

(私もお姉ちゃんみたいに明るくて面白いことが言えたらなぁ……)

 そんな昨夜のやり取りを思い出すと、気が重くなる。
 姉はどうしてもこのチョコを梶君に渡して欲しいらしく、渋る私を無視して勝手に鞄に入れたくらいだ。

 応援してくれるのは嬉しいんだけれどなぁと、ふと、時計を見ると十五時をちょっと過ぎた所だ。

(そうだ……チョコ、給湯室に置いておこうかな……)

 うちの会社は「お茶は飲みたきゃ勝手に入れろ」システムで女子社員が全員分を用意するという旧式の文化がない。そのため男女ともに訪れる給湯室にはお茶以外にもお菓子置き場があった。
 あの中に紛れさせてしまえば、もしかしたら梶君も食べるかもしれない。

 姉の意図とはだいぶ離れるが、私にとってはこれが精いっぱいだ。

 席を立つ流れで、ちらりと梶君の方を見る。
 真剣に資料を作成しながらも、時折話しかけられた先輩に笑顔を見せる梶君。

 背がすらっと高くて、笑うと子犬みたいで可愛くて……。

「私も、お姉ちゃんみたいだったら話かけられたのかな……」

 チョコをお菓子カゴに詰めながらぽつりと呟くと

「あ、お疲れ梨花ちゃん」

「きゃっ……!」

 いつのまにか、給湯室に梶君が顔を出していた。

「何? 溜息ついていたけれど、なんか悩み事?」

「う、ううん! なんでもない……」

「梨花ちゃん真面目だからなぁー。適度に休憩しなよー。おっ、そのチョコ差し入れ?」

 ちょうだい、とほほ笑まれると、反射的に「ど、どうぞ!」とその手のひらに乗せてしまった。

「ありがと。んじゃ適当に頑張りますかぁ」

 梶君はチョコを口に放り込むとデスクに戻る。
 私は誰にも見られないように給湯室の隅にずるずると座り込んだ。

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