あじわったことのない快感…優しく彼が教えてくれた開放の世界

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あじわったことのない快感…優しく彼が教えてくれた開放の世界 (ページ 1)

『初めまして。わたしを調教してください』

 見知らぬ男性のSNSに、そんなショッキングなメッセージを送ってしまったのは、つい、一時間ほど前。

 ――どうしよう。どうしてわたし、こんなことしちゃったんだろう。

 今からでも取り消せないだろうか。すみません、さっきのは送信ミスでした、消去してください、などと。

 メッセージを送ってから、杏子はただじっと、スマホの画面を見つめていた。スマホの電源を切ることすらできなかった。

 ネット上で「彼」を見つけたのは、ほんの偶然だった。

 アダルトな投稿も認められる――というより、それが主体の、小規模なSNS。適当にリンクを追っているうちに、見つけた。

 迷い込んだ、と言ったほうが、正しいかもしれない。

 スマホの画面をタップしてもタップしても、刺激的な写真や投稿でいっぱいだった。男女の裸や、自分がどんなセックスをしたか、という体験談、あるいは行為の最中の写真など。

 世の中には、こんな臆面もないことをする、できる人がたくさんいるんだ。そう思うだけで、頭がくらくらしてくるみたいだった。

 その中で、見つけた「彼」。

 名前は「紘一」。年齢は三十代前半。飲食店経営。優しい笑みを浮かべるプロフィール写真の背景には、それらしい店の様子が映りこんでいる。

 あとは、彼が撮影したという女性たちの写真が、十数枚アップされていた。

 腕を縛られたり、卑猥な玩具を押し当てられたりしている、女性たち。どれも巧みに顔は隠されているが、それ以外はすべてあらわになっている。胸も、秘部も、女性なら絶対に他人に見せたくない、見せられないはずの部分が、すべて。

 けれど、隠れた顔からわずかに窺える表情は、けして嫌がってはいない。むしろはじけるような解放感にあふれているように、杏子には思えた。

 そして、写真に添えられた彼のコメント。

「誰もみな、本当の自分を知らずに過ごしている。貴女の中の本当の貴女を、解放してあげたい」

 ――解放って、なに……? 気持ちいいの? うれしいの、こんなことが? わたしが、何もわからないだけなの?

 わたしにも、あるの? わたし自身まだ知らない、本当のわたしが。

 その疑問に突き動かされるように、気づいた時には彼に向かってメッセージを送ってしまっていた。

 ――どうしよう。全然知らない人なのに。わたし、なんて馬鹿なことを……。

 いやらしい返事が返ってくるだけならまだしも、これがきっかけでネット上での犯罪に巻き込まれでもしたら。

 恐怖と後悔で、身動きすらできなくなっていた時。

 握りしめていたスマホが、着信を知らせた。

『メッセージありがとう。紘一です』

 彼からの返信は、そんな無難な書き出しで始まっていた。

 その続きは、おだやかな言葉だったが、まるで杏子の胸に突き刺さるようだった。

『僕の勘違いなら、すみません。もしかして、何か悩みがあるんじゃないですか? たいしたことはできませんが、僕で良ければ話を伺いますよ』

 ――返信なんか、しちゃだめ。

 杏子は懸命に、自分へ言い聞かせた。

 ――だめ。絶対、だめ。こんな、見ず知らずの人に、いったい何を言うつもり?

 けれど、気が付けば、指が勝手に返信をつづっていた。

『どうして私が悩んでるって、わかるんですか?』

『僕に調教されたいと願う女性は、たいがい、そうだからですよ』

 すぐに彼から返信があった。

『今の自分が好きになれない。毎日、息苦しい。解放されたい――何に囚われているかもわからないけど。そんな思いに押しつぶされそうになって、変わるきっかけを必死に探して、僕のところへ駆け込んでくる女性は、多いから。非日常の経験が、自分を変えてくれるんじゃないかってね。違いますか?』

 ――違わない。

 一般論として書かれたことが、すべて自分のことのように思える。

『そのとおりです』

 ためらいながら、杏子はメッセージを綴った。

『誰にも言えませんでしたが、ずっと悩んでいました……』

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