本音を言えない私を、彼はギリギリまで焦らして甘く抱いていく (ページ1)

ギシッとベットが軋む音と同時に、背中から肩と腰をホールドされ、暖かさに身をよじった。

目を開けれるほど覚醒してはいないまま、巻き付いている腕をポンポンと撫でた。

「ただいま」

耳にチュッという音を小さく響かせてから、私のうなじに頬を擦り寄せる。

「・・おかえり。ごめん、明日早くて・・」

重すぎる瞼に負けて、そのままうわ言の様に呟いた。
うなじに口元を寄せたハルトから、シャンプーの匂いと共に染み付いた香水とお酒の匂いが益々瞼を重くさせた。

ハルトが巻きつけている腕を動かして更に密着するように力を入れた。

ハルトはホストだ。
出会った時はただの大学生だったけれど、大学卒業後バイトだったホストを定職にしてしまった。

ハルトがお店のお客さんに接する時、それは私の知っている『ハルト』ではなくなる。

優しかったりちょっと強引めだったりして相手によってそれぞれキャラクターを変えているようだった。

私の知っているハルトはスキンシップが異常に好きで、優しいけど甘えたで、我儘で頑固ちゃんで。

そんなハルトと全く違う声音と口調にプロ意識を感じた。
と、共に楽しそうだった。

だから、ホストという仕事について否定はしなかった。
でも、完全に何とも思ってないわけではなくて。私の気分によっては、どうしようもなく悲しくなる時もある。
そんな複雑な女心を持ち合わせて私はハルトと暮らしている。

「お疲れ様でした」

席を離れる私の後から課長が追いかけるように席を立った。

「さくら、飲みに付き合え」

「呼び捨てやめてください。ていうか、いいんですか?奥さん怒るんじゃありません?」

呆れ顔で課長を睨んだ。
私の同姓が他にもいたことで課長は私を名前で呼ぶ。
何度言っても呼び捨てはやめてくれず、もはや合言葉になっていた。

「だから、だよ。今やっとガキが寝た時間だから俺帰ると怒られんの。奢るし、付き合え。あ、デートでもあんのか?」

「ありません。もう、1杯だけですよ?」

「話わかるー。さすが部署イチできる部下さくらちゃん」

おどける課長のキャラに大きくため息をつきながらも、昔から飾らない課長に笑みが溢れる。

課長のオススメという店に、案内される途中、ハルトの店付近を通りかかった。

通りには、スーツ姿のいかにも!な男の人達が何人かいて女の子達に声をかけていた。

あんまりこっちは来たくないんだけどな・・。
 

「さくら、こっち。お前、キョロキョロしすぎだから。」

そう言いながら、課長がまるで犬の頭を撫でるように私の頭をワシャワシャと撫でた。

「ちょっ、ほんと、それセクハラに入りますからね!」

慌てて課長の手を振り払おうとしたら軽くかわされて、そのまま店の中へ押し込まれた。

そんなこんなで課長にご馳走になり、家についたのは日付が変わった頃だった。

ドレッサーの前でピアスを外している時に、玄関からガチャっと扉の開く音がした。

「あ、おかえり。早かったね。私も今帰ってきた所・・」

無言でこちらに歩を進めるハルトの様子が変だ、と思った。

と同時に、手首を乱暴に掴まれて引きずられるようにしてベッドに放り投げられた。

訳がわからず、そのまま呆然と私を見下ろすハルトを見つめた。

見上げたハルトは怒っていた。
眼光が鋭くて、いつもは垂れている目尻も釣り上がっていて何も話さない。

掴まれた手首に残る余韻がまだ痛くて、言いしれぬ怖さが襲う。

前のページ

/7