「…ねぇ、私とセックスしない?」―越えてはならぬ筈の一線を越える昼下がり (ページ1)


教室が終わり、余った花や生徒が散らかしていったティーカップやお菓子のゴミを片付ける。

洗い物に水をかけながらシャンパンを注ぐ。

換気扇の前で静華は煙草に火をつけた。



田舎からフラワーアレンジの教室を開きたくて上京したのが2年前。

銀座のクラブでホステスとして働き、実家に仕送りをしながらアレンジの勉強をしていた時、大手建設会社の社長を勤めていた夫に出会った。

20も年が離れていたが、ジュラルミンケースを開いてお嬢さんをくださいと言った夫に貧しかった両親は泣いて喜んだ。


今は自宅でフラワーアレンジの教室を開いている。

もっと大きなところでやりたかったが夫が許さなかった。

生徒は専らしかたなく通っている夫の会社の重役の妻か近所の高級住宅街に住む暇な主婦ばかり。

本当に自分がやりたかったことはこんなことだったんだろうか。

安定した生活と引き換えに何かを置いてきた気がする。


夢、愛、恋、ときめき、狂おしいようなセックス。

夫は最近、私に子供を望んでいる。

あんなセックスで子供なんてできるのかしら、とふと思い出す。

この前などは終わった後で翌月の排卵日を聞かれ、すうっと冷めた心地がした。


「…できるわけないじゃない。ピル飲んでるんだから。」

「すいません、母が忘れ物を…」

がちゃっと開いたドアに驚き、持っていた煙草をうっかりシャンパンに落としてしまった。


―不覚。―


シャンパンが煙草色に染まっていく。

陵介との出会いは突然だった。

お飾りの社長夫人が昼間からシャンパン片手に煙草を吸っていても陵介は少し驚いただけで、すいませんとなぜか謝ってきた。

夫と一緒に会社を興した専務の息子、垢抜けたスーツ姿からも育ちの良さが滲み出ているような印象だった。


―ちょっと遊んでやろうかしら―


「お母様がお忘れのストールでしたらそこにありますよ。」

「ありがとうございます。」


じっと見つめるだけである程度相手に動揺を与えられる外見だと自覚している。

その証拠に陵介は少し顔を赤らめて、ストールをとった。

ぎこちなく漂う空気が静華に何かを告げているような気がした。


直感的に感じるものが静華を動かした。

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