副業ではじめたのはアロママッサージのアルバイト。常連のイケメンおじさんといい感じになっちゃって……? (ページ 2)

「あれ、今日はいつもと違う香りがするね? これはこれでいい匂いだ」

「今日のは新作だそうです。それはそうと……今週もすごいですねぇ……肩も首もがっちがちですよ」

 岩のようなそれに触れると、これはちゃんとした整体に行くべきなのでは? と思ってしまう。

「はは……お世話になります。歳だからなぁ」

「渋谷さんの場合は猫背が原因かもですよ? せっかくスタイルがいいのにもったいないです」

「君みたいな若い子にそう言って貰えると嬉しいですよ」

 最初はうつ伏せの状態で蒸しタオル。続いてオイルでマッサージ……というのが基本の流れだ。

 蒸しタオルをしている間はアロマの香りで癒されるようにスタッフは一度退出するのが普通なのだけれど……。

(なんだろ……なんか、今日は、くらくらする……)

 室内の設定温度はいつもと変わらないし、湿度だって高くない。というか、身体の奥がじんわりと疼いている。

(渋谷さん……背中広いなぁ)

 もう歳、と渋谷さんは言うけれど。

 シャツ越しでも、その背中が無駄のない筋肉で引き締まっていることが伺える。

 ――触ってみたい。

 いつもじゃありえない感情が、むくむくと育つ。

「芽衣子さん、あの……迷惑じゃなければ、今日はこのままお話できないかな?」

 ぼうっとしている私の意識は渋谷さんの急な申し出によって醒めた。

「え、え? いいですけれど……私、癒すお話とかできませんよ?」

「芽衣子さんはかわいいなぁ。それだけで十分癒されますよ……って、これはセクハラか」

「いやいやいやいや! ぜんぜん! というか……」

 ――私の事かわいいって思ってくれていたんですか。

 突然の言葉が嬉しくて、言葉が詰まる。

「というか、何?」

 かっと熱くなった頬を隠そうとしたのに。

 こちらを流し目で見つめる渋谷さんと眼が合った瞬間、耳まで赤くなってしまったのを感じた。

「あはっ! 芽衣子さん、照れていますね。かわいいなぁ」

「きょ……今日の渋谷さん、なんか……い、意地悪です……っ!」

 私はお返しに凝っているであろう肩のツボをぐーっと押した。渋谷さんは痛い痛いって笑っている。

「すみません、弱点を押すのは勘弁してください」

「そうですよー? 私、渋谷さんの気持ちいい所、知っちゃっているんですからね? ほら、こことか気持ちイイでしょ?」

 得意になって首の付け根をぐりっと押す。すると

「……あっ……」

 鼻に抜けるような……渋谷さんからは聞いたことがない声が漏れた。

(……きもち、いいのかな?)

 むくむくとイタズラ心に火が付く。

 私はそのままうなじから肩にかけてオイルを垂らすと皮膚を指先で撫でた。

「そ、れは! くすぐったいですよ!」

 渋谷さんが肩を震わせる。

 声を出さないように堪えている姿が可愛くて、弱いと分かっている鎖骨を撫でた。

「は……っ! もう……芽衣子さん!」

 耳を赤くした渋谷さんが、たまらないと言った様子で上体を起こし、私の手首を掴んだ。

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