バーを出てから記憶がない…しかも何故か隣には裸の課長がいて…。

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バーを出てから記憶がない…しかも何故か隣には裸の課長がいて…。 (ページ 1)

彼氏の浮気が発覚した。唯子はすぐに別れてやったが気持ちはおさまらず、現在、行きつけのバーのマスター相手に悔しさをぶちまけている。

 酔いで目元を赤くした唯子がもう何杯目かわからないおかわりを頼もうとした時、彼女の隣に男性が腰かけ、そっと声をかけてきた。

「え、誰……あ、課長?」

「こんばんは。聞いたことある声だと思っていたら、君だったとはね。そろそろ閉店だ。今日はもう帰ろう」

「……そうですね。ちょっと飲みすぎですね。帰ります」

 突然現れた課長にうながされるまま、唯子はふらつく足で席を立った。

 どうしてか唯子は、この課長に逆らえなかった。

 課長が厳しい人であるとか、弱みを握られているとかではない。たとえば、何となく課長からの頼まれごとは、それが仕事外のことでも断れないのだ。それはきっと、彼を尊敬しているからだろうと思っている。

 そして唯子は支払いをすませてバーを出て……記憶があいまいになって……どこかのホテルのベッドにいた。なぜか裸の状態で。

 さらに唯子を混乱させたのは、隣に課長がいることだった。スマホをいじっているが、毛布から見えるむき出しの腕や肩から彼も裸だと思われる。

 唯子が驚愕して課長の横顔を凝視していると、彼は視線に気づいて笑いかけてきた。

「ああ、目が覚めたみたいだね。水でも飲むかい」

「ありがとうございます……じゃなくて! ど、どうして私達、裸でこんなとこに」

 ベッド脇の冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した課長は、びっくりしたように目を丸くした。

「まさか、何も覚えてないのか?」

「す、すみません。いったい何が……」

「それは……ショックだな。僕はてっきり……」

 課長は言おうか言うまいかためらいを見せた後、少し恥ずかしそうに小声で言った。

「僕の気持ちに応えてくれたのかと思った」

 唯子はそこまで鈍くない。課長が自分にどんな気持ちを持っているのか、その気配から容易に察することができた。けれど、すぐにそんなはずないと否定する。

 この課長は三十代はじめの独身で、見た目が良くて、中身も良くて、女性社員の間では『真のイケメン』とたいへんな人気なのだ。

 対して唯子は特筆すべき点のない、ごくふつうの平社員だ。

「仕方ない。覚えていないなら、思い出してもらおうか。このままだと僕が卑怯者になってしまうからね」

「えっと、その……お水もらっていいですか?」

「ああ、悪いね。ちょっと待って」

 ペットボトルのキャップを開けた課長は、何を思ったか自分で中身をあおり、そして唯子に覆いかぶさって口移しで飲ませにかかった。

「……!」

 流し込まれる冷たい水を、反射的に飲み込む唯子。

 突然の行為に文句を言おうとするが、口はふさがれたまま。さらにミネラルウォーターでやや冷たくなった口内を課長の舌がなぞった。唯子の舌はあっさりと絡め取られてしまった。

「ん……んふぅ……」

 唯子は課長を押し返そうとするがビクともしない。スマートなスーツ姿の下には、意外とたくましい身体が隠されていた。

 最後に下唇を甘噛みされて開放された唯子は頭がぼーっとなり、ただ自分を見下ろす課長を見ているだけだった。

「思い出した?」

「え、何を……」

「ふむ」

 小さく首を傾げた彼は、唯子の濡れた唇を親指の腹でなぞると、形の良い額にチュッとキスを落とした。

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