遊郭という籠の中で過ごす最初で最後の幸せな一夜 (ページ 2)

花は頭をゆったりと上げ、廓言葉で名を名乗る。

「お客さん、あちきは夢というでありんす」

だが、男は無言。

花は訝しげに目線を上げ、目の前に突っ立ったままの男の顔を見やる。

(…何なの?無遠慮にジロジロと…面倒だなぁ〜)

男は確かに、皆が騒いでいた通りなかなかの色男だ。

だが今の夢には、そんなのどうでもよかった。

「なぁ…お前、東の外れにある村の出身だよな?」

男はそういうと、夢の両肩をガシッと掴み、とてつもなく真剣な表情で見つめてくる。

「そ、そうでありんすよ?」

すると、男はパッと泣きそうな笑顔になり夢を引き寄せ、力一杯ギュッと抱きしめた。

「や、やっぱり!夢なんだなっ!?会いたかった……!!!」

「ちょっ…!?」

いきなりの展開に頭が付いて行かず、夢は男を押しやる。

「すんまへん。あの…どなたでありんすか?」

「俺…俺だよっ!ほら、夢の家の隣に住んでた!祥吉だよっ!!」

「へっ……………えぇぇっ!!?祥吉っ!?嘘っ…」

驚きのあまり、廓言葉を忘れ標準語に戻ってしまう。

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